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東京地方裁判所 平成8年(行ウ)205号 判決 2000年11月17日

主文

一  被告が原告らに対し平成八年七月一七日付けでした別紙目録一ないし三の各1記載の土地に係る平成六年度固定資産課税台帳の登録価格についての審査申出に対する決定を取り消す。

二  訴訟費用は被告の負担とする。

事実及び理由

第一請求

一  主文一項と同旨

二  被告が原告らに対して平成八年七月一七日付けでした審査決定に係る別紙目録一ないし三の各1記載の土地(以下、これらの土地を「本件各土地」と総称し、個々の土地を順次「本件土地一」、「本件土地二」及び「本件土地三」という。)に対する平成六年度固定資産課税台帳の登録価格のうち同目録一ないし三の各2記載の平成五年度の登録価格を上回る部分を取り消す。

(なお、原告らは、本訴請求の趣旨として、右一、二項のとおり申し立て、右各請求の関係は選択的併合であるとする。

しかし、後記のとおり、地方税法(以下「法」という。)は、二項の請求のように固定資産評価審査委員会のした決定のうちの価格の一部のみを取り上げて、その取消しを求めることを予定していないというべきであること、一項、二項の各請求において、原告らが違法事由として主張するところは、いずれも、原告らが平成六年一月一日における本件各土地の適正な時価と考える価格(平成五年度固定資産課税台帳の登録価格と同一の価格)を、被告の決定した価格が上回るという点にあること、原告らは、各請求の関係を選択的併合であるとして、違法事由が認められる場合に、いずれの請求を認容するかを裁判所にゆだね、二項の請求に固執するものではないことを明らかにしていることからすると、原告らの右各請求は、平成五年度固定資産課税台帳の登録価格を上回る点において被告の審査申出に対する決定には違法があると主張して、右決定の取消しを求めているものと理解するのが相当であり、結局、これらの両請求は同一の請求と理解するのが相当である。

すなわち、法は、固定資産税の納税者が、その納付すべき固定資産税に係る資産について固定資産課税台帳に登録された一定の事項について不服がある場合には、固定資産評価審査委員会に審査の申出をすることができる(法四三二条一項)とする一方、同委員会は、右申出を受けた場合においては、直ちにその必要と認める調査、口頭審理その他の事実審査を行い、その申出を受けた日から三〇日以内に審査の決定をし、決定のあった日から一〇日以内に、申出人及び市町村長(東京都の特別区においては、法七三四条一項の規定により、東京都知事。以下同じ。)に文書をもって通知しなければならないとし(法四三三条一項、一二項(平成一一年法律第一五号による改正前の法においては同条八項。以下、同じ。))、右の決定に不服がある固定資産税の納税者は、その取消しの訴えを提起できるとしている(法四三四条一項)。右のとおり、取消訴訟の対象である固定資産評価審査委員会の決定は、固定資産課税台帳に登録された一定の事項についての審査申出人の不服申立てに対する同委員会の応答としてされるものであり、また、右決定において判断された価格は、後記のとおり、基準年度に係る賦課期日における当該固定資産の適正な時価という一個の評価的事実であるから、法は、右価格を可分なものであるとして、その一部に関する部分のみが取消訴訟において争われ、残部が別途に確定するという事態は予定していないというべきである。もし仮に同委員会の決定が可分なものであって、その一部のみの取消しを訴求することが認められるとすると、請求が認容された場合には、同委員会は審査申出に対して応答すべき義務の履行として改めて当該部分についての決定を行うべきこととなるが(行政事件訴訟法三三条二項)、その結果、右の新たな決定と訴訟の対象とならなかった決定の残部の両方が存在することとなり、これらの間の論理的な整合も期し難い結果を招来することとなり、実際上も不都合であると解される。

これに対し、判決において決定のうちの価格の一部又は全部を取り消した場合には、その部分については、固定資産評価審査委員会が改めて決定する義務は生ぜず、決定のうち取り消されなかった部分のみの効力が存続すると考える余地もなくはないが、右のような考え方は、行政事件訴訟法三三条二項の規定に反するうえ、審理の結果、係争部分の具体的な価格について真偽不明となれば、立証責任の原則に従い、右請求に係る部分の価格全部を取り消すべきこととなり、改めて同委員会の決定も行われないため、右の係争部分の価格は零円として確定することになると解さざるを得なくなるが、そのような結果が不合理であることは明らかであり、右の考え方を採用することはできない。

むしろ、法は、固定資産評価審査委員会の決定については、市町村長に対しても、右決定を文書をもって通知するものとし(法四三三条一二項)、市町村長は、その結果、既に固定資産課税台帳に登録された価格等を修正する必要があるときは、右通知を受けた日から一〇日以内にその価格等を修正して登録し、その旨を当該納税者に通知すべきものとしたほか(法四三五条一項)、同項の規定によって価格等を修正した場合においては、市町村長は、固定資産税の賦課後であっても、その修正した価格等に基づいて、既に決定した賦課額を更正すべきことを義務づけている(同条二項)が、判決の結果に基づいて、直ちに市町村長が固定資産課税台帳に登録された価格等を修正すべき事態が生じることを予定した規定は設けられていないことからすれば、法は、取消訴訟において固定資産評価審査委員会の決定のうち価格の認定に誤りがあると判断された場合には、改めて同委員会による決定がされることを前提としているというべきである。

ちなみに、固定資産評価審査委員会の決定が不可分であると解した場合、同委員会が認定した価格が「適正な時価」を上回るとして同委員会の決定を取り消す旨の判決がなされ、その理由中で「適正な時価」が具体的に認定判断されているときには、同委員会は、右判断の拘束を受けたうえで、改めて決定を行うべきこととなる。)

第二事案の概要

本件は、原告らがその所有に係る本件各土地の平成六年度の土地課税台帳に登録された価格(いずれも原告らの審査申出に対する被告の決定により変更されたもの)が「適正な時価」を上回ると主張して、被告の右決定の取消しを求めている事案である。

一  前提となる事実

1  原告らは、本件各土地の所有者(各原告の持分は二分の一ずつ)であって、本件各土地の固定資産税の納税義務者である。

(争いがない事実)

2  本件各土地の平成五年度土地課税台帳の登録価格は各別紙目録2欄記載のとおりであったが、東京都知事は、本件各土地の平成六年度の価格を各別紙目録3欄記載のとおり決定し、東京都渋谷都税事務所長は、これを土地課税台帳に登録した。

(争いがない事実)

3  原告らは、平成六年四月二六日、被告に対し、右平成六年度登録価格を不服として、審査の申出をしたのに対し、被告は、平成八年七月一七日、本件各土地の平成六年度の価格を各別紙目録4欄記載のとおり変更する旨決定した(以下「本件決定」という。)。

(甲一)

二  法令の定め等

1  固定資産(土地)評価に関する法の規定等

(一) 土地に対して課する基準年度(本件では平成六年度である。)の固定資産税の課税標準は、当該固定資産の基準年度に係る賦課期日(当該年度の初日の属する年の一月一日、本件では平成六年一月一日である。法三五九条)における価格であり、右価格とは「適正な時価」(法三四一条五号)であって、土地課税台帳又は土地補充課税台帳(以下、これらを併せて「土地課税台帳」という。)に登録されたものである(法三四九条一項)。

(二) 土地課税台帳に登録される価格(以下、この価格を「登録価格」という。)の決定に際しての固定資産の評価については、自治大臣が、評価の基準並びに評価の実施の方法及び手続を定め、告示しなければならないものとされ(法三八八条一項前段)、固定資産評価基準(昭和三八年一二月二五日自治省告示第一五八号。以下「評価基準」という。)が告示されている。

そして、市町村長は評価基準によって固定資産の価格を決定しなければならないとされ(法四〇三条一項)、固定資産の価格等を決定し、価格等を登録した場合には、その結果の概要調書を作成し、毎年四月中にこれを道府県知事に送付しなければならず(法四一八条)、道府県知事は右価格の決定が評価基準によって行われていないと認める場合においては、当該市町村長に対し、登録価格を修正して登録するよう勧告するものとされ、自治大臣は右勧告をするよう指示するものとされている(法四一九条一項、四二二条の二第一項)。

評価基準の取扱いに関しては、自治事務次官の依命通達(「固定資産評価基準の取扱いについて」昭和三八年一二月二五日自治乙固発第三〇号。以下「取扱通達」という。)が発せられている。

なお、自治大臣は、市町村長に対して、固定資産の評価に関する資料の作成又は助言による技術的援助を与えなければならず、また、道府県知事も、自治大臣の作成した資料の使用方法についての指導又は評価についての助言を与えなければならない(法三八八条三項、四〇一条)とされているが、これらは、自治大臣又は道府県知事に市町村の徴税吏員又は固定資産評価員に対する指揮権限を与えるものではない(法四〇二条)。

(三) 市町村長は、固定資産評価員から所定の手続による土地の評価に係る評価調書を受理したときは、毎年二月末日までに評価基準によって固定資産の価格等を決定し、これを土地課税台帳に登録しなければならない(法四一〇条、四一一条一項)。

2  評価基準が定めている宅地の評価方法の概要は、平成六年度においては、次のとおりである(評価基準第1章第3節)。

(一) 地目の現況が宅地である場合の土地の評価は、各筆の宅地について評点数を付設し、当該評点数を評点一点当たりの価額に乗じて各筆の宅地の価額を求める方法による。なお、本件各土地での評点一点当たりの価額は一円である。

(二) 各筆の評点数は、市町村の宅地の状況に応じ、主として市街地的形態を形成する地域における宅地については「市街地宅地評価法」によって、主として市街地的形態を形成するに至らない地域における宅地については「その他の宅地評価法」によって付設する。

(三) 「市街地宅地評価法」による宅地の評点数の付設

(1) 市町村の宅地を商業地区、住宅地区、工業地区、観光地区等に区分し、当該各地区について、街路の状況、公共施設等の接近の状況、家屋の疎密度その他の宅地の利用上の便等からみて相当に相違する地域ごとに区分し(以下、右のとおり区分される状況が類似した地域を「状況類似地区」という。)、当該地域の主要な街路に沿接する宅地のうち、奥行、間口、形状等の状況が当該地域において標準的なものと認められる標準宅地を選定する。

(2) 右標準宅地について、売買実例価額から評定する適正な時価を求め、これに基づいて当該標準宅地の沿接する主要な街路について路線価を付設し、これに比準して主要な街路以外のその他の街路の路線価を付設するものとする。その際には、主要な街路の路線価を基礎とし、主要な街路に沿接する標準宅地とその他の街路に沿接する土地との間における宅地利用上の便等の相違を総合的に考慮する。

(3) そして、各筆の宅地の評点数は、その沿接する路線価を基礎とし、各筆につき評価の対象とすべき画地を認定し、奥行のある画地、正面と側面あるいは裏面等に路線がある画地等の状況に従って、所定の補正を加える方式(画地計算法)を適用して付設する。

3  平成六年度の評価替えに関する通達等

(一) 自治事務次官は、平成六年度評価替えにあたり、取扱通達を一部改正する旨の通知(平成四年一月二二日自治固第三号。以下「七割評価通達」という。)を各都道府県知事あてに発した。

右通知の骨子は、土地の評価は、売買実例価額から求める正常売買価格に基づいて適正な時価を評定する方法によるものであるとしていた従前の通達に、宅地の評価に当たっては、地価公示法による地価公示価格、国土利用計画法施行令による都道府県地価調査価格及び不動産鑑定士又は不動産鑑定士補による鑑定評価から求められた価格を活用することとし、これらの価格の一定割合(当分の間この割合を七割程度とする。)を目途とする、というものである。

(乙一)

(二) そして、自治省税務局資産評価室長は、地価変動に伴う鑑定評価価格の修正について、「平成六年度評価替え(土地)に伴う取扱いについて」と題する通知(平成四年一一月二六日自治評第二八号。以下「時点修正通知」という。)を各都道府県総務部長、東京都主税局長あてに発した。

これは、平成六年度の評価替えは、平成四年七月一日を価格調査基準日として標準宅地について鑑定評価価格を求め、その価格の七割程度を目標に評価の均衡化・適正化を図ることとしているが、最近の地価の下落傾向に鑑み、平成五年一月一日時点における地価動向も勘案し、地価変動に伴う修正を行うこととする、というものである。

(乙三)

4  東京都特別区における評価方法

東京都特別区においては、東京都知事が固定資産の価格を決定するものとされ(法七三四条一項、四一〇条)、評価の方法については、評価基準及び七割評価通達を取り込んだ東京都固定資産(土地)評価事務取扱要領(昭和三八年五月二二日主課固発第一七四号主税局長決裁。以下「取扱要領」という。)及び東京都土地価格比準表(以下「比準表」という。)によることとされていた(以下、評価基準、取扱通達、七割評価通達、取扱要領及び比準表を「評価基準等」という。)。

(乙四、同九)

三  本件決定の根拠(被告の主張。なお、当該事実について当事者間に争いがない事項は、その旨を末尾に記載した。)

1  本件各土地の地目

本件各土地の登記及び現況地目はいずれも宅地であり、主として市街地的形態を形成する地域における宅地に該当する。

(争いがない事実)

そこで、被告は、本件決定に当たっては、市街地宅地評価法により評価した。

2  本件各土地が属する地域の用途地区区分

本件各土地の付近は、ターミナル駅、デパート等を中心とし、多種類でかつ繁華街と比べ平均的に大きい店舗が集中している商業地として高度に発達している地区に該当する。

(争いがない事実)

そこで、被告は、本件決定に当たっては、本件各土地が属する地域の用途地区区分を、高度商業地区として評価した。

3  画地認定及び角地

本件各土地は、他の五筆の土地(渋谷区α三三番六ないし同番一〇)と合わせて鉄骨鉄筋造地上九階建店舗ビルの敷地として利用されている。

(争いがない事実)

評価基準等では、画地の認定は、原則として土地(補充)課税台帳に登録された、一筆の宅地を一画地とするものであるが、例外として、隣接する二筆以上の宅地にまたがり、恒久的建物が存在する土地等については、二筆以上の宅地を合わせて評価するものと規定しているから、本件各土地を含む右八筆の土地は、隣接する二筆以上の宅地にまたがり恒久的建物が存在する土地として、一画地と評価すべきである。

右八筆の土地(以下「本件角地」という。)は、正面(北側)と左右の側方(以下、側方路線のうち、東側の街路を「側方路線(一)」といい、西側の街路を「側方路線(二)」という。)との三方に路線がある画地(角地)である。

こうした角地の価格は、正面路線のみに接する画地の価格より一般的に高くなるものであるから、正面路線から求めた基本単価を補正する必要があり、具体的には、正面路線のみに接するとした場合の基本単価に、副路線である左右の側方路線をそれぞれ正面路線とみなして計算した評点に当該用途地区の取扱要領付表2「側方路線影響加算率」によって補正した評点を加算して補正することになる。

4  標準宅地の選定

右の高度商業地区について、状況類似地区ごとに区分したうえで、その地区ごとに標準宅地を選定すると、次のとおりとなる。

(一) 正面路線に沿接する地区及び側方路線(一)に沿接する地区渋谷区β七五番九に所在する土地(以下「標準宅地a」という。)

(二) 側方路線(二)に沿接する地区

渋谷区α三六番一三に所在する土地(以下「標準宅地b」という。)

(争いがない事実)

5(一)  標準宅地aに沿接する主要な街路の路線価 二二八〇万〇〇〇〇点

標準宅地aに係る適正な時価については、価格調査基準日である平成四年七月一日時点の不動産鑑定価格三七〇〇万円を活用するとともに、平成五年一月一日までの六箇月の地価動向を勘案しマイナス一一・八パーセントの時点修正を行い、その七割程度の価格をもって二二八〇万円とし、右価格に基づいて路線価を付設した。

(二)  標準宅地bに沿接する主要な街路の路線価 一三七〇万〇〇〇〇点

標準宅地bに係る適正な時価については、価格調査基準日である平成四年七月一日時点の東京都地価調査価格二一三〇万円を活用するとともに、平成五年一月一日までの六箇月の地価動向を勘案しマイナス七・二パーセントの時点修正を行い、その七割程度の価格をもって一三七〇万円とし、右価格に基づいて路線価を付設した。

(三)  本件角地に沿接する正面路線の路線価 二一八〇万〇〇〇〇点

標準宅地aに沿接する主要な街路と本件角地に沿接する正面路線とを比較して、その格差を幅員、連続性等の街路条件九九パーセント、最寄駅への距離等の交通・接近条件九七パーセント、商業密度等の環境条件一〇〇パーセント、容積率等の行政条件一〇〇パーセントと算定し、これらを乗じた格差率九六パーセントを主要な街路の路線価二二八〇万点(前記(一))に乗じて、正面路線の路線価を付設した。

(計算式)

21,800,000=22,800,000×(0.99×0.97×1.00×1.00)

主要な街路の路線価 街路 交通 環境 行政

格差率の補正処理は小数点第3位で四捨五入

路線価付設は有効数字上位3桁

(四)  本件角地に沿接する側方路線(一)の路線価 一九八〇万〇〇〇〇点

標準宅地aに沿接する主要な街路と本件角地に沿接する側方路線(一)とを比較して、その格差を幅員、連続性等の街路条件一〇〇パーセント、最寄駅への距離等の交通・接近条件九七パーセント、商業密度等の環境条件九〇パーセント、容積率等の行政条件一〇〇パーセントと算定し、これらを乗じた格差率八七パーセントを主要な街路の路線価二二八〇万点(前記(一))に乗じて、側方路線(一)の路線価を付設した。

(計算式)

19,800,000=22,800,000×(1.00×0.97××0.90×1.00)

主要な街路の路線価 街路 交通 環境 行政

格差率の補正処理は小数点第3位で四捨五入

路線価付設は有効数字上位3桁

(五)  本件角地に沿接する側方路線(二)の路線価 一二六〇万〇〇〇〇点

標準宅地bに沿接する主要な街路と本件角地に沿接する側方路線(二)とを比較して、その格差を幅員、連続性等の街路条件九七パーセント、最寄駅への距離等の交通・接近条件一〇四パーセント、商業密度等の環境条件一三二パーセント、容積率等の行政的条件六九パーセントと算定し、これらを乗じた格差率九二パーセントを主要な街路の路線価に乗じて、側方路線(二)の路線価を付設した。

(計算式)

12,600,000=13,700,000×(0.97×1.04×1.32×0.69)

主要な街路の路線価 街路 交通 環境 行政

格差率の補正処理は小数点第3位で四捨五入

路線価付設は有効数字上位3桁

6  画地計算法に基づく算定

(一) 本件各土地の基本単価 二一三六万四〇〇〇点

(1) 正面路線から本件角地の奥行きは一九・五メートルである。

(争いがない事実)

(2) そこで、取扱要領付表1に基づき、奥行価格補正率〇・九八を正面路線の路線価二一八〇万点(前記5(三))に乗じて算出した。

(二) 側方路線(一)の加算評点 二七七万二〇〇〇点

(1) 側方路線(一)から本件角地の奥行きは二八・五メートルである。

(争いがない事実)

(2) そこで、取扱要領付表1に基づき、奥行価格補正率〇・九二を側方路線

(一) の路線価一九八〇万点(前記5(四))に乗じ、さらに、側方路線(一)の用途地区は高度商業地区であるから、取扱要領付表2に基づき、側方路線影響加算率の〇・一五〇を乗じて算出した。

(計算式)

2,772,000=19,880,000×(0.92×0.150)

側方路線(一)の路線価 奥行補正 側方路線影響加算率

2種以上の補正率は小数点第3位で四捨五入

(三) 側方路線(二)の加算評点 一七六万四〇〇〇点

(1) 側方路線(二)から本件角地の奥行きは二八・五メートルである。

(争いがない事実)

(2) そこで、取扱要領付表1に基づき、奥行価格補正率〇・九二を側方路線(二)の路線価一二六〇万点(前記5(五))に乗じ、さらに、側方路線(二)の用途地区は高度商業地区であるから、取扱要領付表2に基づき、側方路線影響率の〇・一五〇を乗じて算出した。

(計算式)

1,764,000=12,600,000×(0.92×0.150)

側方路線(二)の路線価 奥行補正 側方路線影響加算率

2種以上の補正率は小数点3位で四捨五入

(四) 本件各土地の単位地積当たりの評点 二五九〇万〇〇〇〇点

本件各土地の基本単価二一三六万四〇〇〇点(前記(一))に側方路線(一)の加算評点二七七万二〇〇〇点(前記(二))及び側方路線(二)の加算評点一七六万四〇〇〇点(前記(三))を加算した。

(五) 本件土地の評価額

(1) 本件土地一の評価額 六一三八万〇〇〇円

右単位地積当たりの評点二五九〇万点に本件土地一の地積二・三七平方メートルを乗じて総評点六一三八万三〇〇〇点を求め、これに一点当たり価格一円を乗じて算定した。

(2) 本件土地二の評価額 三億五八七一万五〇〇〇円

右単位地積当たりの評価点二五九〇万点に本件土地二の地積一三・八五平方メートルを乗じて総評点三億五八七一万五〇〇〇点を求め、これに一点当たりの価格一円を乗じて算定した。

(3) 本件土地三の評価額 一三億九四九七万四〇〇〇円

右単位地積当たりの評点二五九〇万点に本件土地三の地積五三・八六平方メートルを乗じて総評点一三億九四九七万四〇〇〇点を求め、これに一点当たりの価格一円を乗じて算出した。

四  当事者双方の主張

(原告らの主張)

1 賦課期日のすり替えの違法

法は、固定資産税の課税標準を賦課期日における価格と規定しているのであるから(法三四九条一項)、本件各土地の評価は賦課期日である平成六年一月一日時点でしなければならない。

しかし、東京都知事は、時点修正通知に従い、平成五年一月一日以降賦課期日までの一年間の地価の下落を評価に反映させる方策をとらないまま、一年前の平成五年一月一日の高い時価をもって賦課期日の時価とすることによって、賦課期日の時価とすり替えて平成六年度の評価替えを行ったものであり、これによる評価は賦課期日を誤った違法な評価である。そして、被告も、同様の方法で本件各土地の価格を算定したのであるから、本件決定は、法三四九条一項に反する違法な決定である。

仮に賦課期日の一年半前に価格調査基準日を設けることができるとしても、価格調査基準日以後も地価の下落が続いていることは公知の事実であるから、価格調査基準日と賦課期日との間の時点の違いについて適正に時点修正をすることが必要であるから、これをしていない評価は違法である。

なお、平成六年度の評価替えから七割評価通達によって土地の七割評価がされているが、七割評価が許されるとしても、後述のとおり七割評価というのは評価のアロアンス(謙抑性)を示しているものではなく、評価の上限を示しているものであるから、賦課期日の時価(地価公示価格)の七割水準を上回る評価は違法となるというべきである。

2 通達による評価額の大幅な引上げの違法

(一) 租税条例主義違反

固定資産税の課税標準は評価替えの年度(基準年度)の時価と定められているが(法三四九条一項、三四一条五号)、土地については税負担が重くならないようにするために時価すなわち評価額(地価公示価格)の一定の評価割合をもって課税標準とする二重構造(二元性)が採られてきている。

平成六年度の評価替えに当たり、東京都は土地に対する課税標準を地価公示価格の一五パーセント水準から一挙に七〇パーセントとする大幅な引上げを行った。

このような評価割合の大幅な引上げは、法令によるものではなく、通達によるものであるが、通達によるこのような評価割合の大幅な引上げは租税条例主義に違反するものであり、違憲、違法である。

地方税について法は基準法(枠法)としての効力しかもっていないものであるが、その法が固定資産税の課税標準を時価と定め、具体的な課税標準がその時価の範囲内で決められていても、長い間評価割合を地価公示価格の一五パーセント水準で運用してきていたものを、一挙に大幅に七〇パーセント水準に引き上げるには、税条例上の根拠すなわち納税者の同意が必要である。評価割合は納税者の税負担に直接影響を持つ課税要件そのものであるから、通達で評価割合を引き上げることができるということになると、租税条例主義が空文化する結果を招来する。

(二) 七割評価通達の合理性の欠如と虚構性

七割評価通達の主な根拠は、財団法人資産評価システム研究センターの土地研究委員会の報告書である。

土地研究委員会の構成は自治省税務局や地方自治体の財政部局のOBや現役が多数関与しており、その公正さについてはかねてから疑問が持たれている。そして、その報告書の中で七割評価の最大の論拠としているのは「昭和五〇年代の初頭から中頃にかけての地価安定期における固定資産評価の地価公示価格に対する割合が七割水準であった。」ということであるが、当時は地価公示価格は低く(五割水準程度)設定されていたから、実際の時価との割合は概ね三・五割からせいぜい四割程度であったといわれている。さらに、昭和五〇年前半は地価が確実に上昇していた時代であり、平成六年度の評価替えのころはそれとは全く逆に地価が値下がりしていたから、昭和五〇年度の評価割合をそのまま適用するのは不合理であり、七割評価は土地研究委員会で最初から与えられていた結論(命題)で、同委員会の研究の結果導き出された結論ではない。このように、七割評価通達にいう七割評価は根拠のない不合理なものであるから、七割評価通達を適用することは違法というべきである。

(三) 七割評価通達と平等原則違反

七割評価通達にいう七割という評価割合は評価のアロアンス(評価の謙抑性、固めの評価の要請)から定めているものではない。地価公示価格や不動産鑑定士による土地の鑑定評価額は土地の最有効使用を前提としているのに対し、固定資産税の評価は土地の通常の使用(収益価格)を前提としているから、この相違がもたらす開差を考慮したものであり、七割評価というのは固定資産税における土地評価の上限を示したものである。

すなわち、七割という評価割合を評価のアロアンスと考えると、地価の下落が七割を超えたものだけが違法となるが、この場合は地価そのもので評価額を算出していることになり、固定資産税の課税べースは評価額の七割としていることと不平等な取扱いとなる。

そして、本件各土地の近傍に所在する地価公示地の地価及び相続税の路線価の平成五年一月一日から平成六年一月一日までの下落状況は、別表のとおりである。

そうすると、仮に七割評価が許されるとしても、基準年度の賦課期日(本件では平成六年一月一日)の評価額(地価公示価格等)の七割を超える評価は違法である。

3 評価基準の不合理性

評価基準は自治大臣告示(国家行政組織法一四条一項)で定めているものであり、取扱要領は通達(同条二項)にすぎず、いずれも法令ではなく法的拘束力を持つものではない。また、右告示が法三八八条一項によるものであるとしても、包括的な告示への授権は租税条例主義の原則から許されておらず、この点からも評価基準は有効なものとはいえないし、相続税の評価基準を定めている財産評価基本通達との整合性からいっても、通達と同じ性質のものにすぎないと解すべきである。

したがって、評価基準は通達と同じ性質のものであるから、その内容の法令適合性、合理性については、被告が積極的に主張、立証をすべきである。

また、評価基準は、大量の宅地を短期間で評価するための大雑把な基準であり、昭和三九年に作成されたものであって、セットバックの規制を受けていること、容積率以外の各種の高さ制限を受け実効容積率が低いこと、土地の面積が僅少であり、又は土地が接道義務を満たさないために建物建築が不可能な土地であること、都市計画施設の予定地となり著しく建築制限を受けていること、土地の形状が不整形で建物の建築に適さないこと等、一般に不動産鑑定評価において土地の価額の形成要因であると認められている事項が、評価基準において考慮されておらず、あるいは、考慮されていても著しく不十分である。

したがって、評価基準等に従っているといって、評価が適法となるものではなく、仮に時価の七割での評価が認められるとしても、そこで与えられた三割の余裕を平成五年一月一日から平成六年一月一日までの地価下落で埋めてしまうことは許されず、評価基準が大雑把な基準で、不備があり、不動産鑑定士の評価にも開きがあることからすると、評価基準等を適用した結果が賦課期日(平成六年一月一日)の時価の七割よりも高いものであれば、その評価は違法である。

4 本件各土地の評価における個別的違法について

(一) 標準宅地a及び標準宅地bの平成四年七月一日から平成五年一月一日までの地価下落率の認定の違法渋谷駅周辺の平成四年七月一日から平成五年一月一日までの地価の下落率は、おおむね一五パーセント以上であり、繁華性の高い本件各土地周辺の地価下落率がマイナス一一・八パーセント(標準宅地a)、マイナス七・二パーセント(標準宅地b)などということはあり得ない。

特に、標準宅地bについては、平成四年七月一日から平成五年一月一日までの時点修正率をマイナス一二・二パーセントとする鑑定にも反するものである。

評価基準及び取扱要領には、標準宅地に沿接する主要な街路の路線価を相続税路線価の八分の七とする旨の規定はない。しかも、時点修正とは、ある期間の土地の価格の変動に基づきなされるものであり、他の評価との均衡を図るために行われるものではない。

よって、標準宅地bの平成四年七月一日から平成五年一月一日までの地価下落率の認定は違法である。

(二) 本件角地に沿接する正面路線の商況

標準宅地aに沿接する主要な街路と本件角地に沿接する正面路線とでは、商況は同一ではない。このことは、本件角地に沿接する側方路線(一)の商況が、右主要な街路に比較してマイナス一〇とされていることからも明らかである。

したがって、右正面路線の格差率の算定において、右主要な街路と比較して、商況を少なくともマイナス一〇とすべきである。

(三) 本件角地に沿接する側方路線(二)の商況

被告は、標準宅地bに沿接する主要な街路と比較して、本件角地に沿接する側方路線(二)の商況の格差率をプラス三二としているが、その根拠が不明である。しかも、右側方路線(二)は右主要な街路と同様裏通りであって、右主要な街路と右側方路線(二)との間には、かかる商況の格差はなく、本件決定は違法である。

(四) 側方路線加算について

標準宅地aは三方路の角地であり、このことは、標準宅地aの鑑定書の「自然的状態」欄の記載から明らかである。このような三方路の角地を標準宅地として選定しているのに、本件各土地の評価に当たり、本件角地が一画地として三方の街路に沿接していることから二つの側方路線加算をするのは、重複して高い評価をするものであり、違法である。

また、標準宅地aの鑑定書によれば、右のような繁華性の極めて高い三方の路線に沿接する標準宅地aについても、角地であることの補正率はわずか五パーセントである。一方、本件各土地が三方路線に接することによって評価された加算点は、正面路線が二一八〇万点であるのに対して、側方路線(一)と側方路線(二)の合計で四五三万六〇〇〇点であり、二〇・〇八パーセントもの高率である。

このような側方路線加算することは、前記鑑定書に照らし、適正な評価とはいえず、本件決定は違法である。

(五) 共有地の評価

本件各土地は共有地であり、その適正な時価を評価するためには、共有持分ごとに評価すべきであるのに、被告は単独所有地として評価しており、違法である。

固定資産課税台帳への登録価格を決定することと、右登録価格に基づいて算定される固定資産税等を土地の共有者が法一〇条の二により連帯納税義務を負うこととは次元を異にし、土地を共有持分ごとに評価しても、かかる評価に基づき算定された固定資産税等を連帯して納税するものとすることは問題がなく、共有持分ごとの評価と連帯納税義務とは矛盾しない。

なお、人税か物税かは、租税が主として人的側面に着目して課されているか、それとも物的側面に着目して課されているかによる区別であって、共有地を共有持分ごとに評価することは、固定資産税が物税であることと矛盾するものではない。

(六) 分有地の評価

(1) 本件各土地は、他人の所有地と一棟の建物(ε駅前ビル)の敷地となっているいわゆる分有地であり、各土地の所有者は、ε駅前ビル四階以上を所有地の面積比により共有するが、同ビル三階以下は所有地の地上部分だけの区分所有権を有するにすぎず、裏通りの土地の所有者は、ビルの裏側の権利を有するだけであり、表通りに袖看板を出すことも制限を受けるなどビルの使用、収益が制限されている。

分有地も一画地として評価されることになるが、「適正な時価」を評価するためには、一画地の単価に、各土地のそれぞれの形状(奥行、間口、不整形地、沿接する街路の相違等)による価格の差を考慮し、各宅地の持つ価格の割合に応じた金額により評価をしなければならない。なお、相続税の財産評価においては、分有地の場合、土地全体を一画地の宅地として評価した価格(単価)に、各土地の価格の比を乗じた金額により評価することとされている。

ところが、被告は、分有地全体を一画地とし各分有地の形状、位置、利用状況等を一切考慮せずに、単純に一画地の単価に地積を乗じて評価を行っており、右評価は違法である。

(2) 被告は、分有地の評価については、評価基準に規定がなく、東京都知事の裁量にゆだねられていると主張するが、評価基準に規定がないことは、かかる土地について合理的な評価をしないことの理由とはならないし、基準等が欠けている場合には、一般原則により補充するというのが、評価の適正な手法であるから、評価が東京都知事の裁量にゆだねられているということはできず、また、仮に東京都知事の裁量にゆだねられているとしても、「適正な時価」を算定できない裁量権の行使は違法である。

(3) また、同一の建物の敷地として利用されている土地であっても、所有する土地の位置、形状により、当該建物の利用又は区分所有権に影響を及ぼしているのが通常であり、本件においても、土地所有者は原則として自己の所有する土地の上部の建物の区分所有権を有しており、均一評価の不合理性は明らかである。

特に、本件各土地はいずれも側方路線(二)に沿接する土地であり、正面路線又は側方路線(一)に沿接する土地とは著しく資産価値が異なるのに、同一の評価がされているから、一画地の一部として均一に評価するのがかえって合理的であるとの被告の主張を受け入れることはできない。

(4) さらに、被告は、原告ら主張の評価方法によれば、分筆により価格が変動し、その比が一定しなくなると主張するが、分筆による土地の価格の変動は、分有地の場合に限らず多々あることであり、例えば、更地を分筆すれば価格は変動するから、価格の変動は分有地としての評価を否定する理由とはならない。

(被告の主張)

1 賦課期日から評価事務に要する一定期間を遡った過去の時点の時価を基準として、賦課期日における土地の価格を求めることは適法であること

(一) 法は、基準年度の賦課期日(本件では平成六年一月一日)から評価事務に要する一定期間を遡った過去の時点を価格調査基準日とし、右の時点の価格を「賦課期日における価格」(法三四九条一項)とみなすことまで、許容しているというべきである。

なぜなら、土地の固定資産評価に当たっては、①税負担の適正化・均衡化を図るため、評価基準に基づき、全国の土地を同一の基準で評価すること、②市町村による評価後にも都道府県間及び各都道府県内の市町村間における評価の均衡を図るため、それぞれ所要の調整を行ったうえで、二月末日までに価格を決定してこれを土地課税台帳に登録することが予定されているところ、これら一連の評価事務には、賦課期日を当該年度の初日の属する年の一月一日に遡らせただけでは対応しきれない相当の長期間を要するものと考えられ、基準年度の賦課期日から評価事務に要する期間を遡った時点の地価を基準として賦課期日における適正な時価を評価することは、法が当然に予定しているところと解されるからである。

(二) 右結論は、次のとおり、立法者の意思に合致する適正なものということができる。

すなわち、平成五年三月三一日、平成六年度評価替えに係る法の改正が行われたが、この改正法によれば、平成六年度から平成八年度までの価格の上昇による特例措置、平成六年度から平成八年度までの負担調整措置について、いずれも平成四年七月一日を価格調査基準日とする各都道府県の基準宅地価格を基礎として平成五年度課税標準に対する上昇率を算定し、それにより平成六年度から平成八年度までの課税標準を決定することとされている(法附則一七条の二、同一八条)。換言すれば、法は価格調査基準日の価格を基礎として、平成六年度から平成八年度までの固定資産税の課税標準を決定しているのであり、法が価格決定の基準日を価格調査基準日であるとしていることは明らかである。

また、評価基準に定める指示平均価額についても、平成五年一月一日時点の価格に基づき決定されている。

そうであるとすると、平成六年度の評価替えにおける価格算定基準日を平成五年一月一日としたことは、法が当然に予定しているものというべきである。

(三) これに対し、原告は、価格調査基準日における価格を基礎として算定した価格が賦課期日における適正な時価を上回ると見込まれるときは、あらかじめ想定される価格下落率を折り込んで時点修正すべきであると主張する。

しかし、①宅地の鑑定評価に当たっては、不動産鑑定士が、「不動産鑑定評価基準」(平成二年一〇月二六日、土地鑑定委員会の国土庁長官に対する答申)によって評価するとされているところ、右基準によると、不動産の鑑定評価においては、一般的要因(自然的要因・社会的要因.経済的要因・行政的要因)、地域要因(宅地地域・農地地域・林地地域)、個別的要因の三つの価格形成要因を考慮して評価するとされているだけであり、将来の価格変動は鑑定評価の要因とはされていないこと、②将来時点の鑑定評価は、対象不動産の確定、価格形成要因の把握・分析及び最有効使用の判定についてすべて予測しなければならない上、収集する資料についても鑑定評価を行う時点までのものに限られ、極めて不確実にならざるを得ないことから、「不動産鑑定評価基準運用上の留意事項・総論」において、このような鑑定評価は行うべきではないとされていることより、不動産の鑑定評価に当たっては、将来の価格変動を考慮すべきではないから、原告の主張は妥当性を欠くというべきである。

(四) 仮に、法三四九条及び三五九条の文理に忠実に解釈して、固定資産の評価額は賦課期日すなわち当該基準年度の一月一日時点の価格でなければならないと解したとしても、本件各土地の価格は違法ではないというべきである。

そもそも法は固定資産の評価額を適正な時価にすることまで許容しているのであるから、地価公示価格とほぼ同水準で固定資産の評価における適正な時価が定まることになる。そうであるとすれば、地価公示価格から三割を下回る価格を固定資産の評価額と定めると、適正な時価との比較では三割の余裕があることになり、その範囲が許容範囲となる。

しかも、時価というものは、その性格上、一義的に決まるものではない。なぜなら、売買取引事例を比較して当該土地の時価を算定してみても、土地の形状は一筆ごとに異なるし、売買当事者や取引時点が異なれば、当然に価格は変動するものであるからである。確かに、不動産鑑定評価額は、こうした不正常要素を可能な限り取り除いて客観的に求めた価格ではある。しかし、不動産鑑定理論に基づいて求められた不動産鑑定評価額についても、評価額に一定の幅が存することは経験則上明らかである。そうだとすれば、固定資産の評価における適正な時価とは、一義的に定まる価格ではなくある程度の幅を持つ価格と捉えるべきである。このように「適正な時価」を理解することは、法及び評価基準において、評価額を求めるためには個々の土地の不動産鑑定ではなく路線価方式で足りるとしていること及び各市町村間で基準宅地の適正な時価を調整する手続を要すると規定していることからも認められる。これを前提に考えると、固定資産の評価額として決定された価格を「適正な時価」と認めることが社会通念上著しく妥当性を欠くことが明らかである場合に限り、右評価額は違法な価格というべきである。

2 七割評価通達について

(一) 法は、固定資産の評価額を「適正な時価」すなわち地価公示価格(これはおおむね時価と理解される。)とほぼ一致させることまで許容している。

すなわち、固定資産税は、固定資産課税台帳に登録された固定資産の価格を課税標準とすることを原則として、固定資産の所有者(質権又は百年より永い存続期間の定めのある地上権の目的である土地については、その質権者又は地上権者とする。以下同じ。)に対して、資産の所有という事実に着目して課税する財産税である。それゆえ、資産が土地の場合には、土地の所有という事実に着目して課税されることになるから、個々の所有者が現実に土地から収益を得ているか否か、土地が用益権又は担保権の目的となっているか否か、収益の帰属が何人にあるかを問わず、賦課期日における所有者を納税義務者として、その更地価格に着目して、課税することになる。

そうであるとすると、その課税標準又は算定基礎となる土地の「適正な時価」とは、「時価」の一般的概念に照らしても、正常な条件の下に成立する当該土地の取引価格、すなわち、客観的な交換価値(客観的時価)をいうものと解すべきである。

(二) そうだとすれば、七割評価通達を契機として平成六年度の評価替えの際に本件各土地の登録価格が引き上げられたとしても、通達の内容が法令の正しい解釈に合致するものである以上、本件各土地の登録価格の決定は法令の根拠に基づいてなされた適法なものであることは明らかである。

(三) これに対して、原告は、たとえ法律に通達の内容が合致するとしても、固定資産税についていわゆる「二割評価」が長年にわたり広く実施されてきたことからして、通達に基づいて評価額を引き上げることは租税条例主義に違反すると主張する。

しかし、①「適正な時価」が客観的時価を意味する以上、減額評価の違法は原告に有利になることはあっても不利となるものではないから、価格決定の違法事由とはならないこと、②国民に納税義務を定める租税法において、課税標準が納税者の信頼(慣習)によって決定される余地はないこと、③地価公示価格と登録価格の割合は、昭和五〇年代には約七〇パーセント、場所によっては一〇〇パーセント近い地点も存したのであるから、原告の主張するように「登録価格は公示価格の二割以下である」との法的確信が過去三〇年以上にわたり国民(住民)に形成されていたとは認め難いこと、④登録価格は、地価公示価格の二割以下とする旨の通達又は原告への言明、教示は存在しなかったこと、⑤法的安定性、法予測可能性は、あくまで登録価格についてではなく、税額について問題とされるべきところ、税額に関しては負担調整措置の導入等により、緩やかに変化するように規定されたから、法的安定性等は侵害されていないことからして、原告の主張は妥当性を欠くというべきである。

(四) 平等原則違反の主張に対する反論

法は、固定資産の評価額を地価公示価格と一致させることまで許容しており、固定資産税の資産評価につき時価以下の一定率で評価の均衡を求める規定は法律上存しないから、市町村長は、時価による評価の均衡を図るべきであって、時価を下回る一定率での評価の均衡を図る必要はないというべきであり、適正な時価と登録価格とを区別する原告の主張は失当である。

また、七割評価通達の趣旨が、仮に原告の主張するように収益価格への配慮又は公的評価制度における価格の一元化を目指すものであって、賦課期日までの時点修正を目的とするものではないとしても、評価基準の適用においては、七割評価による修正を経た価格が賦課期日における標準宅地の適正な時価とされるのであるから、登録価格が賦課期日における適正な時価であるかどうかは右修正を経た価格について判断されるべきである。

3 評価基準に法的拘束力があること

(一) 法は、固定資産税に関して、昭和三七年三月三一日法律第五一号地方税法の一部を改正する法律(以下「昭和三七年改正法」という。)において、右改正前の法四〇三条一項が「市町村長は、(略)自治大臣が示した評価の基準並びに評価の実施方法及び手続に『準じて』、固定資産の価格を決定しなければならない。」としていたのを、「市町村長は、(略)第三八八条第一項の固定資産評価基準に『よって』、固定資産の価格を決定しなければならない。」と改正した。

これは、①改正前の固定資産評価基準が市町村長に対する一つの参考にすぎないと理解されていたため、市町村の固定資産の評価が地域によりまちまちとなっていたところ、評価方法が各市町村において異なるようでは納税者間の公平を期すことができないため、固定資産の評価の均衡を図る必要があること、②処分庁が短期間に大量の固定資産について個別に評価することは現実的に極めて困難なため、評価事務の簡便さを図る必要が生ずることより、両者の要請を調整すべく、自治大臣に評価基準の定立を委任したのである。

そうであるとすると、条文の文理解釈及び右立法趣旨からして、評価基準に依拠することが不可欠であり、法的拘束力が認められるべきである。

右結論は、昭和三七年改正法が、法三八八条一項として「自治大臣は、固定資産の評価の基準並びに評価の実施の方法及び手続(以下「固定資産評価基準」という。)を定め、これを告示しなければならない。」とする規定を新たに設け、右規定を受けて、従来は自治事務次官の依命通達によっていた評価基準を告示することに変更したことからも明らかである。なぜなら、改正の結果、評価基準は、通達とは異なり、法令と同様に官報に掲載されて、一般に告知されることになったからである。

(二) これに対し、原告は、租税条例主義の原則からすると、告示への包括的授権は許されないと主張する。

しかし、①租税法の対象とする経済事象は極めて多種多様であり、しかも激しく変遷していくので、これに対応する定めを法律の形式で完全に整えておくことは困難であること、

② 現実に公平課税等の租税原則を実現するためにも、その具体的な定めを命令に委任し、事情の変遷に伴って機動的に改廃していく必要があるのは否定できないことからすれば、すべて法律で規定しなければならないと解することは適当ではない。

そこで、固定資産税の課税要件の内容の一つである課税標準については、法三四九条一項で明記することとし、その具体的、細目的、技術的な算定基準を自治大臣の告示にゆだねたのであるから、立法形式の点からいっても、評価基準は市町村の固定資産評価に当たって法的に基準たり得ることになる。

(三) 以上によれば、昭和三七年の法改正後は、評価基準と異なる評価方法を採用することは許されなくなったのであり、市町村長は、評価基準に従った評価をなすべく義務づけられているものと解するのが相当である。

したがって、本件各土地の価格は、評価基準に従って決定された以上、その価格は適法というべきである。

4 本件角地の正面路線等の路線価の付設及び画地計算について

(一) 標準宅地aに係る適正な時価を二二八〇万円としたことの合理性

(1) 標準宅地aの平成四年七月一日時点の不動産鑑定評価額三七〇〇万円は、専門家である不動産鑑定士の鑑定により評価された評価額であるから、これを参考に標準宅地aの価格を決定したことは適当である。

(2) 平成四年七月一日から平成五年一月一日までの時点修正率をマイナス一一・八パーセントとしたことの合理性平成四年七月一日から平成五年一月一日までの地価の変動率は、①渋谷区内の地価公示地(商業地)の平成四年一月一日から平成五年一月一日までの平均変動率がマイナス二三・〇パーセントであること、②渋谷区内の東京都基準地(商業地)の平成三年七月一日から平成四年七月一日までの平均変動率がマイナス一七・七パーセント、平成四年七月一日から平成五年七月一日までの平均変動率がマイナス二七・七パーセントであること、③本件標準宅地と地域的特性・地価水準が比較的類似している地価公示地(ε五―一二)の平成四年一月一日から平成五年一月一日までの変動率がマイナス二〇・六パーセント(一箇月当たりマイナス一・七パーセント)であること、④本件標準宅地と地域的特性・地価水準が比較的類似している東京都基準地(ε五―三)の平成三年七月一日から平成四年七月一日までの変動率がマイナス八・五パーセント(一箇月当たり〇・七パーセント)、東京都基準地(ε五―六)の変動率がマイナス一〇・四パーセント(一箇月当たり〇・九パーセント)であることを参考に、マイナス一一・八パーセントと認定したものである。

右のとおり、右時点修正率には十分な合理性がある。

これに対し、原告らは、都心部の地価は一般に繁華性の高い地区ほど高い下落率を示していることからしても、右時点修正率は妥当性を欠くと主張するが、①バブル崩壊に伴う地価の変動率は、必ずしも繁華性の高い地区ほど高い下落率を示しているわけではなく、地域的な特性によること、②そもそも法は固定資産の評価額を適正な時価にすることまで許容していることからすれば、原告らの批判は失当である。

(3) また、平成六年度の評価替えにおいては、土地基本法一六条の趣旨を踏まえ、公的価格の一元化の要請に応えるべく、相続税路線価との均衡にも配慮することが必要とされるところ、標準宅地aの固定資産の評価額と相続税路線価を比較検討するとおよそ七対八の割合となっているから、適正な時価の範囲内にあるといえる。

(4) そして、仮に、本件各土地の評価額が平成六年一月一日時点の「適正な時価」を超えないことを要するとしても、本来、法は固定資産の評価額を適正な時価にすることまで許容しているにもかかわらず、東京都知事は、あえて三割減価補正した価格を評価額として決定している。

そうであるとすると、標準宅地aを鑑定評価するに当たり規準とした地価公示地(ε五―一二)の平成五年一月一日から平成六年一月一日までの地価変動率は、不動産鑑定理論に基づいて算定された鑑定評価額によるものとして、一定程度の許容範囲があることを斟酌すると、およそマイナス三〇パーセントであるから、標準宅地aの価格二二八〇万円が「適正な時価」の範囲内にあることは明らかである。

(二) 標準宅地bに係る適正な時価を一三二七〇万円としたことの合理性

(1) 標準宅地bの平成四年七月一日時点の不動産鑑定評価額二一三〇万円は、専門家である不動産鑑定士の鑑定により評価された評価額であるから、これを参考に標準宅地bの価格を決定したことは適当と解される。

(2) 平成四年七月一日から平成五年一月一日までの時点修正率をマイナス七・二パーセントとしたことの合理性不動産鑑定士は、標準宅地bの平成四年七月一日から平成五年一月一日までの地価の変動率を、①東京都地価動向調査の区部中心区の年間変動率が、平成四年七月から同年九月までがマイナス四・〇パーセント、同年一〇月から同年一二月までがマイナス八・三パーセントであるから、合わせて約一二パーセントの下落率で推移したこと、②渋谷区内の地価動向調査及び調査中の平成五年度地価公示の調査内容との比較考量を参考に、マイナス一二・二パーセントと認定したものであり、右認定には十分な合理性がある。

しかし、不動産鑑定理論に基づいて求められた不動産鑑定評価額についても評価額に一定の幅が存することは経験則上明らかである。

そして、本件決定において時点修正率の再調整を行ったのは、土地基本法一六条の趣旨を踏まえ、公的価格の一元化の要請に応えるべく、相続税路線価との均衡にも配慮したからである。

そうであるとすれば、鑑定で求められた時点修正率を再調整した時点修正率マイナス七・二パーセントには十分な合理性がある。

これに対し、原告らは、都心部の地価は一般に繁華性の高い地区ほど高い下落率を示していることからしても、右時点修正率は妥当性を欠くと主張するが、①バブル崩壊に伴う地価の変動率は、必ずしも繁華性の高い地区ほど高い下落率を示しているわけではなく地域的な特性によること、②そもそも法は固定資産の評価額を適正な時価にすることまで許容していることから、原告らの批判は失当である。

(三) 本件角地に沿接する正面路線及び側方路線(一)の商況

原告らは、本件決定が、標準宅地aに沿接する主要な街路と本件角地に沿接する側方路線(一)との商況の格差率をマイナス一〇と認定しながら、右主要な街路と本件角地に沿接する正面路線との商況の格差率を零と認定したのは均衡を失し、違法であると主張する。

ところで、標準宅地aはβ七五番九(P3ビル)の土地であるが、右土地に沿接する街路は渋谷駅前のスクランブル交差点に接し、かつ、集客力の高い大規模な店舗や渋谷駅(JR、銀座線、東急東横線、井の頭線)に近接した人通りの極めて多い地点である。

一方、本件角地に沿接する正面路線は標準宅地aに対面する街路であり、標準宅地aと同様に集客力の高い大規模な店舗(「シブヤ109」等)や渋谷駅(JR、銀座線、東急東横線、井の頭線)に近接した人通りの極めて多い地点といえる。

そのため、標準宅地aと正面路線とでは商況による格差が生じてないものである。

他方、本件角地に沿接する側方路線(一)は井の頭線渋谷駅に通じる街路ではあるが、標準宅地aに沿接する街路と較べ人通りが劣るから、標準宅地aと側方路線(一)とで商況による格差が生じているのである。

そうであるとすると、商況についての前記の格差には理由があるから、原告らの主張は妥当性を欠く。

(四) 本件角地に沿接する側方路線(二)の商況

原告らは、標準宅地bに沿接する主要な街路と本件角地に沿接する側方路線(二)との商況の格差をプラス三二としているが、その根拠が不明である、ばかりかかかる格差は存しないから、右評価は誤りであると主張する。

しかし、宅地の中でも商業地の価格形成については、地域の態様や地域的特性の多様さから統一的な把握や分析が困難であると考えられているところ、東京都区部のような広範な地域においては、商業密度、商業中心からの距離等の要因では説明できない多様な要因が「商況」に影響するというべきである。

してみると、右側方路線(二)は、標準宅地bに沿接する街路に較べ商業中心及び渋谷駅に近いことによる商業的な影響やそれぞれが接続している表通りの繁華性の程度を考慮し、商況によるプラス三二の調整を行ったものであるから、その評価は妥当である。

右結論は、商況を考慮しなくとも、公的価格の一元化の要請にかんがみて、相続税の路線価との均衡が図られていることからも、その妥当性が裏付けられる。

①固定資産税路線価 一二六〇万円

②相続税路線価 一四四六万円

①÷② 八七・一四パーセント

(五) 側方路線加算の合理性

(1) 原告らは、標準宅地aが三方路の角地であるのに、本件角地も三方の路線に沿接する一画地として二つの側方路線加算をするのは、重複して高い評価をするものであり、違法であると主張する。

しかし、標準宅地aは一画地の一部にすぎず、標準宅地aの鑑定書の「自然的状態」の欄の記載は、評価対象不動産の状況について記載したものではなく、近隣地域の状況について記載したものであるから、標準宅地aを三方路の角地ととらえる原告らの主張は、その前提において失当である。

そもそも標準宅地aに沿接する主要な街路の路線価を付設するに当たって、当該土地の評価から、角地であること及び規模が小さいことを捨象して、当該主要な街路のみに面するいわゆる中間画地としての評価に基づいてなされている。

そうであるとすれば、本件各土地の評価において、二つの側方路線加算をしているとしても重複して高い評価を行っているとはいえない。

(2) また、原告らは、標準宅地aの鑑定書中の角地による加算率と本件各土地の評価における三方路線地の加算率とが大きく異なるから、本件決定は違法であると主張する。

しかし、商業地において副路線が存する場合に加算する根拠は、一路線に接するより複数の路線に接する方が多くの人の目に触れやすくなるなど広告宣伝効果、顧客誘因効果が高くなるところに求められる。

したがって、本件各土地は渋谷駅の駅前広場に面する一等地であり、その広告宣伝効果、顧客誘因効果は極めて高いというべきであるから、本件決定における側方路線加算率は妥当というべきである。

(六) 共有地の評価について

(1) 評価基準等における共有物の評価に関する規定を検討すると、当該土地の評価額は、標準宅地の路線価を比準して付設された路線価及び一画地の形状等に応じて算出すべきものとされており、当該画地の所有の形態を考慮すべきものとされていない。

そうであるとすれば、法は、一棟の建物が共有地に存する場合でも、当該共有地の評価額は右土地の持分権の価格ではなく、右土地の価格とするように定めているというべきである。

そもそも法は、共有物の評価に関し、三四三条一項において固定資産税の納税義務者をその所有者と規定するとともに、一〇条の二第一項に-おいて当該固定資産が共有物の場合には、納税者である共有者が連帯して納付する義務を負う旨規定している。換言すれば、法は、二人以上の者が同一の物を共有している場合には、所有者の持分に応じて課税するのではなく、連帯納税義務を負う旨規定しているのである。

したがって、土地の価格の評価に当たっては、共有者の持分の割合により按分した価格ではなく、土地そのものの価額について判断すべきことになるから、単独所有地と同様の評価をした本件決定には何ら問題はない。

(2) そして、法三五二条の二は、連帯納税義務(法一〇条の二第一項)を原則としたうえで、例外的に共有者の持分割合による按分価額の納税を認めると規定したにすぎないことが、文言上明らかであるところ、法三五二条の二は、共同住宅の敷地の共有者に対し持分割合によることなく全額を課税したことの適否が争われた事件についての下級審判決例が、共有土地についての固定資産税は、共有者が連帯して納付する義務を負う旨を判示していることを受けて、共有物の中でもとりわけ区分所有建物の敷地のうち一定のものについては、その結びつきが希薄であること等から、例外的に固定資産税額を共有持分により按分した額と追加して規定したにすぎないのであり、共有物に対する固定資産税の原則的課税方法は一括課税方式であることが立法的に確認されたとみるべきである。

(3) また、固定資産税は、固定資産の資産価値に着目して、その資産を所有することに対して課せられる物税であって、使用収益に対して課せられる税とは異なるから、個々の資産の用途の別や利用状況によって税負担に差を設けることは、固定資産税の基本的性格に反するものである。

そこで、当該土地が共有であるか否かにかかわらず、原則として、一画地として評価すべきことになる。

(4) 以上によれば、本件各土地は法三五二条の二第一項に掲げる区分所有に係る家屋の敷地の用に供されている土地に該当しないから、原則どおり土地全体の価額を登録価格とした本件決定に何ら誤りはない。

(5) これに対し、原告らは、共有地の評価について、共有者の共有持分ごとに評価すべきであると主張するが、固定資産税評価は、あくまで対象土地の「適正な時価」を求めるところにあるというべきである。

すなわち、共有といえども、共有者は対象土地全体に対して権利を有しているのであり、対象土地の適正な時価とはあくまで土地全体の価格をいうと解すべきである。それにもかかわらず、原告らは「対象土地」の時価という大前提を捨象してしまっているからである。

そうであるとすれば、「共有地」という「対象土地」全体の評価をする被告の評価方法は、十分に合理性を有するから、原告らの主張は失当というべきである。

(七) 分有地の評価について

(1) 原告らは、本件各土地が他人の所有地とともに一棟の建物の敷地となっている分有地であるにもかかわらず、各分有地の形状、位置、利用状況等を一切考慮せずに、単純に一画地の単価に地積を乗じて評価を行った本件決定は違法である旨主張するが、①評価基準等は、「その形状、利用状況等からみて、これを一体をなしていると認められる部分に区分し、又はこれらを合わせる必要がある場合においては、その一体をなしている部分の宅地ごとに一画地とする」(評価基準別表第3の2参照)と規定しているだけであり、二筆以上の宅地を一画地と評価した場合に各土地の評価をどのようにすべきかについては規定しておらず、東京都知事の裁量にゆだねていること、②二筆以上の土地が一画地と評価される場合、各土地の価値は、それぞれの土地の形状や一画地における位置等により影響するものではなく、一画地の一部として均一に評価するのがかえって合理的であること、③仮に原告らの主張するように、個別に各土地の形状による価格の比を乗じて評価することになると、所有者が分筆して各土地の形状が変更すると、それに応じて価格が変動することになるが、それではその比が一定せず、かえって均衡を失することにもなりかねないことからして、原告らの主張は受け入れ難い。

そして、前述したように、固定資産税は、固定資産の資産価値に着目して、その資産を所有することに対して課せられる物税であって、使用収益に対して課せられる税とは異なり、個々の資産の用途の別や利用状況によって税負担に差を設けることは、固定資産税の基本的性格に反するものであるから、分有地についての被告の評価方法が評価基準等に基づいてなされた適正なものであることは明らかである。

(2) また、原告らは、いわゆる分有地の評価に関し、一画地の単価に各土地のそれぞれの形状(奥行間口、沿接する街路の相違等)による価格差を考慮し、各宅地の持つ価格の割合に応じた金額により評価すべきであると主張する。

しかし、分有地の「適正な時価」を評価するに当たり、各宅地の価格割合に応じて評価することが、唯一合理的な「適正な時価」の算出方法ではない。

すなわち、分有地の場合、全体画地(一画地)に対する持分の比率は外形的に表示されないため、課税上、「適正な時価」を求める方法としては、①当事者全員の合意文書に基づく申告による方法、②各所有者の所有地の面積比による方法、③各所有者の所有地の価格の総額比による方法が考えられる。

そうしたところ、原告らは③の方法を採るべきであると主張するが、価格の総額比によるといっても、原告らの主張する当事者間の総額比の認定がどのような評価基準によったものであるか不明であること、各所有地の価格比率は、建築当初から今日に至るまで不変というわけではなく、周辺土地の開発や近隣施設の影響等により変動すること、一般に、土地所有者間の合意は土地所有者が共同で事務所ビル等の建設を行う時点で確定されるものであって、その後評価の見直しがされるという性格のものではないことからして、前記③の方法が「適正な時価」の唯一の合理的な算出方法とは認め難いのである。

もっとも、これに対して、原告らは、被告が三年ごとに評価基準等に基づいて評価し直せば足りると主張するかもしれないが、短期間に大量の土地を評価しなければならない固定資産評価において、かかる作業を行うことは事務処理の一層の増大をもたらし処理能力の限界を超えること、一画地の上に恒久的建物が所在する土地は、一体として利用することにより、単に一所有者の所有地よりも有効に土地利用ができることからして、三年ごとに固定資産評価基準によって見直すべきとの原告らの主張が唯一の適正な評価方法であるかは極めて疑問である。

そうだとすれば、各所有者の所有地の面積比によって評価する被告の方法にも十分な合理性がある。

五  争点

本件の争点は、次の各点である。

1  時点修正通知に基づく本件各土地の評価の適法性の有無 (争点1)

2  七割評価通達に基づく本件各土地の評価の適法性の有無 (争点2)

3  評価基準等の合理性の有無 (争点3)

4  本件各土地の評価の個別的違法の有無 (争点4)

第三争点に対する判断

一  争点1及び2について

1  「適正な時価」の意義

固定資産税は、固定資産課税台帳に登録された固定資産の価格を課税標準とすることを原則として(法三四九条一項、三四九条の二)、固定資産の所有者(質権又は百年より永い存続期間の定のある地上権の目的である土地については、その質権者又は地上権者とする。以下同じ。)に対して(法三四三条一項)、資産の所有という事実に着目して課税される財産税であり、資産が土地の場合には、土地の所有という事実に担税力を認めて課税するのであって、原則として、個々の所有者が現実に土地から収益を得ているか否か、土地が用益権又は担保権の目的となっているか否か、収益の帰属が何人にあるかを問わず、賦課期日における所有者に対し、課税されるものである。

このような固定資産税の性質からすると、その課税標準又はその算定基礎となる土地の「適正な時価」(法三四一条五号)とは、正常な条件の下に成立する当該土地の取引価格、すなわち、客観的な交換価値(以下、これを「客観的時価」という。)をいうものと解すべきである。

2  「適正な時価」の算定基準日

そして、法は、土地課税台帳に登録すべき価格を基準年度に係る賦課期日における価格としているのであるから(法三四九条一項)、右登録価格は、賦課期日である当該年度の初日の属する年の一月一日(本件では、平成六年一月一日)時点を基準日として、同日における客観的時価をもって算定すべきであって、これと異なる時点における客観的時価をもって賦課期日における価格とみなすことは許されないというべきである。

ところで、法は、市町村長の価格決定は、毎年二月末日までに行うべきものとしている(法四一〇条)ところ、右の価格決定の作業に従事し得る人的資源には限りがあるのに対して、課税対象となる固定資産が極めて大量に存在することからすれば、前記の賦課期日において価格調査を行った上で、その後の二箇月間のうちに「適正な時価」を算定する諸手続を完了することは、実際上困難であり、法が、賦課期日における価格算定の資料とするための標準宅地等の価格評定について、賦課期日からこれらの評価事務に要する相当な期間をさかのぼった時点を「価格調査の基準日」としてこれを実施することを禁じていると解すべき根拠も見当たらないことからすれば、価格調査の基準日が賦課期日の一年半前であったとしても違法とはいえないというべきである。

しかしながら、土地課税台帳に登録すべき価格は、前記のとおり、あくまで賦課期日である当該年度の初日の属する年の一月一日における客観的時価であるから、右の調査結果に基づいて、賦課期日における客観的時価を算定するに当たっては、その間の時点修正を行うべき必要があることは当然である。

なお、自治省税務局資産評価室長が発した時点修正通知は、標準宅地の評価額を価格調査基準日のそれに固定するのではなく、時点修正を行うべき旨の技術的援助と解され、これによって、さらに賦課期日までの時点修正を行うべき必要性を否定する趣旨のものとは解されない。

3  評価基準による評価と客観的時価との関係

適正な時価の意義を前記のように解すると、土地の適正な時価の算定は、鑑定評価理論に従って個々の土地について個別的、具体的に鑑定評価することが最も正確な方法ということになる。

しかし、課税対象となる土地は極めて大量に存在することから、限りある人的資源により、時間的制約の下で、右のような評価を実施することが困難であることは明らかである。

そこで、法は、これらの諸制約の下における評価方法を自治大臣の定める評価基準によらしめることとし、併せて、極めて大量の固定資産について反復、継続的に実施される評価について、各市町村の評価の均衡を確保するとともに、評価に関与する者の個人差に基づく評価の不均衡を解消しようとしているものということができる。

もっとも、右の評価基準は、各筆の土地を個別評価することなく、諸制約の下において大量の土地について可及的に適正な時価を評価する技術的方法と基準を規定するものであり、宅地評価についてみれば、個別鑑定と同様の方法で標準宅地の客観的時価を算定し、価格形成要因の主要なものに関する補正等を加えて、対象土地の価格を比準評定するものであって、宅地の価格に影響を及ぼすべきすべての事項を網羅するものではないから、標準宅地の評定及び評価基準による比準の手続に過誤がないとしても、個別的な評価と同様の正確性を有しないことは制度上やむを得ないものというべきであり、評価基準による評価と客観的時価とが一致しない場合が生ずることも当然に予定されているものというべきである。

そして、このように、評価基準等による評価方法には誤差が生じるおそれがあることからすれば、少なくとも評価額が客観的時価を超えるという事態が生じないように、あらかじめ減額した数値をもって計算の基礎となる標準宅地の「適正な時価」として扱うことは合理的な方法というべきであり、また、評価手続上、賦課期日の時価が予測値にならざるを得ず、地価が下落する可能性も排除できないことに照らしても、課税標準の特例以外であっても一般的な負担軽減方法として「適正な時価」をあらかじめ控え目に評定することも、固定資産の価格を当該固定資産の「適正な時価」と定めた法の趣旨に反しない限度で許されるものというべきである。

したがって、その意味では、公示価格の算定と同様の方法で評価した標準宅地の価格のおよそ七割をもって、その適正な時価として扱うことも、法が禁ずるものではなく、右のような趣旨において七割評価通達には合理性が認められ、これに従った評価を行ったことには違法がないというべきである。

4  原告は、七割評価通達は、固定資産税の評価においては土地の通常の使用(収益価格)を前提とすべきであるにもかかわらず、地価公示価格や不動産鑑定士による鑑定評価額が土地の最有効使用を前提として行われることから、その開差を考慮したものであり、七割評価は土地評価の上限を示したものであって、基準年度の賦課期日の評価額(地価公示価格)の七割を超える部分は違法であると主張する。

しかし、固定資産税は、土地の所有という事実に着目して課税されるものであって、個々の具体的な収益に着目して課税されるものでないことは前述のとおりであり、七割評価通達の本来の趣旨が賦課期日までの時点修正を目的とするものではないとしても、評価基準を適用し、七割評価による修正を経て算定された価格が賦課期日における客観的時価を上回らない限り、この点で、固定資産評価審査委員会が行った決定に違法があるとはいえないというべきであるから、原告の右主張は採用できない。

また、従前の評価額が時価に比して著しく低額であったとしても、そのような低い価格をもって法及び評価基準の前提とする「適正な時価」であると解することができないことは既に説示したとおりであるから、七割評価通達に従った結果、評価額が従前の評価額を上回ることとなったとしても、この点をとらえて、租税条例主義に違反するとは解されない。

したがって、これらの点に関する原告の主張は採用することができない。

5  以上によれば、登録価格の違法に関する判断は、①評価方法の選定、標準宅地の選定、標準宅地の価格と基準宅地の価格との均衡及び標準宅地の評価額から対象土地への比準の方式が評価基準及び市町村長の補正に関する基準(取扱要領等)に従ったものであるかどうか(基準適合性)、②右評価基準等が一般的に合理性を有するかどうか(基準の一般的合理性)、③評価基準による評価の基礎となる数値、すなわち、標準宅地の価格が賦課期日における適正な時価であるかどうか(標準宅地の価額の適正さ)が審理されるべきこととなる。

なお、既に説示したとおり、評価基準による評価が複数の評価要素の積み重ねを通じて結論において「適正な時価」に接近する方法であることからすると、評価基準に定める個別的評価要素が具体的な土地の特殊性に照らして適切さを欠くとみえる場合があるとしても、一般的に合理的とされる評価基準による評価が客観的時価を超えないときは、これを違法とすることはできず、また、評価基準による評価が客観的時価との不一致の程度の個別的相違を許容していることに照らせば、右事情があるとしても、なお、評価基準等に合致した右評価は公平の原則に適合するものというべきである。

しかし、前記のような評価方法は、一定の期間内に限られた人的資源をもって、極めて大量に存在する課税対象土地の評価を遂げなければならないという制約の下で可及的に「適正な時価」に接近するための方法として許容されているものであり、登録価格が賦課期日における対象土地の客観的時価を上回ることまでも許容するものではないから、前記①ないし③の事由が立証されたとしても、結果としての登録価格が賦課期日における対象土地の客観的時価を上回るときは、その限度で登録価格の決定は違法になるというべきである。

二  争点3について

1  評価基準第1章第3節によれば、本件各土地のように主として市街地的形態を形成する地域における宅地については、市街地宅地評価法によって評価する旨が定められている。

この評価法は、いわゆる路線価方式による評価法であるが、路線価方式は、大量の宅地を短期間に相互の均衡を考慮しながら評価する方法として使用できるものと一般に解されており、評価基準において路線価方式を採用したことには一般的な合理性があるということができる。

2  また、評価基準は、市街地宅地評価法における各街路の路線価は、売買実例価額を基礎として、街路の状況、公共施設等の接近の状況、家屋の疎密度その他の宅地の利用上の便等及び各街路の路線価の均衡等を総合的に考慮して決める旨定めているが、右のような方法は鑑定評価の方法として不相当なものではなく、客観的時価への接近方法として合理性を有するものということができ、評価基準の定める画地計算法についても、宅地を評価する基準・方法として合理性を欠くという事情も見当たらない。

さらに、東京都特別区においては、前記第二の二4のとおり、取扱要領及び比準表を定めているが、証拠(乙四、同九)及び弁論の全趣旨によれば、取扱要領及び比準表は、評価基準に従ってより具体的に価格の算定方法を規定したものと認められ、宅地を評価する基準・方法として合理性を欠くといった事情は認められない。

なお、共有地及び分有地の評価の合理性は、それぞれ後記三6、7に記載のとおりである。

3  したがって、評価基準における市街地宅地評価法は、全体として「適正な時価」への接近方法として合理的であって、法の委任の趣旨に従ったものであるということができ、また、取扱要領及び比準表の定めも、全体として客観的時価への接近方法として合理性を有するものということができる。

三  争点4について

1  標準宅地aの賦課期日における適正な時価について

(一) 証拠(乙六、同一六、同一七、同一九)中に記載された各鑑定評価の根拠に照らせば、被告主張に係る標準宅地aの平成四年七月一日における一平方メートル当たりの評価額三七〇〇万円及び同日から平成五年一月一日までの時点修正率マイナス一一・八パーセントは、それぞれ当時の客観的時価及び地価下落率であったことが推認され、また、証拠(乙一七)によれば、標準宅地aの平成五年一月一日における一平方メートル当たりの客観的時価は三二六〇万円であると認められ、右認定を覆すに足りる事情は本件全証拠によっても認めることはできない。

(二) 平成五年一月一日から平成六年一月一日の間における標準宅地aの地価下落について証拠(乙六、同一六)及び弁論の全趣旨によれば、標準宅地aの鑑定評価に当たり、その公示価格に時点修正率、個別的要因の標準化補正率及び地域要因格差の修正率を乗じて標準宅地aに係る規準価格算定の基礎とされたε五―一二(渋谷区α二一三番、住居表示は渋谷区α二九番一九号)の公示価格は、右期間において、二二七〇万円から一五〇〇万円まで三三・九パーセントの下落があったことが認められる。

ところで、一般に、地価公示価格は、都市及びその周辺の地域等において、標準地を選定し、その正常な価格を公示することにより、一般の土地の取引価格に対して指標を与え、及び公共の利益となる事業の用に供する土地に対する適正な補償金の額の算定等に資し、もって地価の形成に寄与することを目的とするために、地価公示法により公示される(同法一条)ものであって、その算定に当たっては、土地鑑定委員会は、二人以上の不動産鑑定士又は不動産鑑定士補の鑑定評価を求め、その結果を審査し、必要な調整を行って、自由な取引が行われるとした場合におけるその取引において通常成立すると認められる価格を判定するものである(同法二条)から、地価公示価格は、当該土地の基準日における正常取引価格に極めて近似すると解される。

そして、地価公示の標準地が、土地の用途が同質と認められるまとまりのある地域において、土地の利用状況、環境、地積、形状等が当該地域において通常であると認められる一団の土地が選定されていること(地価公示法施行規則二条)、標準宅地aと右公示地の近接性及び状況の類似性に照らせば、標準宅地aについても、右期間内に三三・九パーセントの地価下落があったものと推認するのが相当であり、三割を超える地価の下落があったというべきである。

これに対し、被告は、不動産の価格に一定限度の許容範囲があることを斟酌すると、右下落率はおよそ三〇パーセントであると主張するところ、証拠(乙六、同一六)及び弁論の全趣旨によれば、標準宅地aの鑑定評価に当たり、その基準地価格に時点修正率、個別的要因の標準化補正率及び地域要因格差の修正率を乗じて標準宅地aに係る比準価格算定の基礎とされたε五―三(渋谷区γ一〇番二外一筆、住居表示は渋谷区γ二二番八号)の基準地価格は、平成四年七月一日には二一五〇万円、平成五年七月一日には一七二〇万円、平成六年七月一日には一一二〇万円であることが認められるから、平成四年七月一日から平成五年七月一日まで、及び同日から平成六年七月一日までの各一年間を通じて一律の地価下落があったと仮定すると、平成五年一月一日の価格は一九三五万円(平成四年七月一日の価格と平成五年七月一日の価格の中間値)、平成六年一月一日の価格は一四二〇万円(平成五年七月一日の価格と平成六年七月一日の価格の中間値)と推定され、右推定値を前提とすると、右基準地の平成五年一月一日から平成六年一月一日までの地価下落率は二七パーセントと算定されることとなる。

しかし、標準宅地aとの比較における地域要因格差について、公示地(ε五―一二)がマイナス二七ポイントとされるにすぎないのに対し、基準地(ε五―三)はマイナス四二ポイントとされ(乙六、同一六)、右基準地と標準宅地aとの状況の違いが大きいこと、また、右二七パーセントの地価下落率の推認も、七月一日から一月一日までと、一月一日から七月一日までの地価下落率が同じであると仮定した上でのおおよその傾向にすぎないことからすると、右基準地価格の推移をもって、前記の三三・九パーセントの地価下落の認定を覆すには足りないというべきである。

よって、標準宅地aについては平成五年一月一日から平成六年一月一日までの間に、七割評価通達に従った場合に生ずる三割の評価誤差の許容範囲を超える地価下落があったというべきである。

(三) そうすると、平成六年一月一日における標準宅地aの適正な時価は、前記認定の平成五年七月一日時点の本件標準宅地の一平方メートル当たりの客観的時価三二六〇万円に同日から平成六年一月一日までの時点修正として六六・一パーセントを乗じた二一五〇万円(上位四桁以下を切捨て)と認めるのが相当である。

したがって、被告の算定した標準宅地aに沿接する主要な街路の路線価二二八〇万点をもって、標準宅地aの賦課期日における適正な時価に基づくものということはできず、右路線価を二一五〇万点と認めるのが相当である。

2  標準宅地bの賦課期日における適正な時価について

(一) 証拠(乙七、同一三)中に記載された鑑定評価の根拠に照らせば、被告主張に係る標準宅地bの平成四年七月一日における一平方メートル当たりの評価額二一三〇万円は、当時の客観的時価であったことが推認され、右推認を覆すに足りる事情は本件全証拠によっても認めることはできない。

(二) 平成四年七月一日から平成五年一月一日の間における標準宅地bの地価下落について証拠(乙七、同一三、同二〇)によれば、不動産鑑定士P1は、右期間における標準宅地bの地価下落率を一二・二パーセントと鑑定したが、その根拠は、東京都地価動向調査の区部中心区の平均変動率が、平成四年七月から同年九月までがマイナス四・〇パーセント、同年一〇月から同年一二月までがマイナス八・三パーセントであるから、通じて約マイナス一二パーセントで推移したこと、並びに渋谷区内の地価動向調査及び調査中の平成五年度地価公示の調査内容をも比較考量した結果によるものであることが認められる。

右鑑定評価の根拠に照らせば、右期間における標準宅地bの客観的時価の下落率は一二・二パーセントであったことが推認され、右推認を覆すに足りる事情は本件全証拠によっても認めることはできない。

これに対し、本件決定は、右期間の時点修正率をマイナス七・二パーセントと決定しているが、その理由は、証拠(乙七)によれば、標準宅地bに沿接する正面路線の固定資産路線価と相続税路線価との比を、適正な比とされる七対八にするために、右期間の時点修正率で調整したことによるものであることが認められる。

このように、本件決定は、客観的な価格変動とは異なり、相続税路線価との調整という公的評価相互間の調整のための配慮から、価格評価の専門家である不動産鑑定士の評価に修正を加えるものである。

確かに、相続税路線価は、地価公示価格の評価水準の原則として八〇パーセントとなるように決定されているものの、価格の正確性においては地価公示価格の方が勝っており、標準宅地bについて、相続税路線価に比準した価格が、右不動産鑑定士の鑑定によるよりも、より客観的時価に近接すると認めるに足りる証拠がない以上、マイナス七・二パーセントを時点修正率として採用することは、客観的時価の評価の見地から是認することはできない。

よって、右期間における標準宅地bの地価下落率は一二・二パーセントと認めるのが相当である。

(三) 平成五年一月一日から平成六年一月一日の間における標準宅地bの地価下落について証拠(乙七、同一三)及び弁論の全趣旨によれば、標準宅地bの鑑定評価に当たり、その公示価格に時点修正率、個別的要因の標準化補正率及び地域要因格差の修正率を乗じて標準宅地bに係る規準価格算定の基礎とされたε五―一(渋谷区δ一六番七、住居表示は渋谷区δ六番一号)の公示価格は、右期間において、一一六〇万円から八一〇万円まで約三〇・二パーセントの下落があったことが認められる。

そして、地価公示価格及び地価公示の標準地についての前記のとおりの性質、並びに標準宅地bと右公示地の近接性及び状況の類似性に照らせば、右期間内の標準宅地bの地価下落率は三〇パーセントであったと認めるのが相当であるから、七割評価通達に従った場合に生ずる三割の評価誤差の許容範囲を超える地価の下落はなかったものというべきである。

(四) そうすると、平成六年一月一日における標準宅地bの適正な時価は、平成四年七月一日時点の標準宅地bの一平方メートル当たりの不動産鑑定価格二一三〇万円に、同日から平成五年一月一日までの時点修正として八七・八パーセント及び同日から平成六年一月一日までの時点修正として七〇パーセントを乗じた一三〇〇万円(上位四桁以下を切捨て)と認めるのが相当である。

3  本件角地に沿接する正面路線及び側方路線(一)の商況について

(一) 証拠(乙八、同一〇)によれば、本件決定は、標準宅地aに沿接する主要な街路と比較した環境条件のうち商況の格差を、本件角地に沿接する正面路線については零ポイントと認定し、本件角地に沿接する側方路線(一)についてはマイナス一〇ポイントと認定したことが認められる。

ところで、取扱要領及び比準表において価格形成要因の一つとされる環境条件は、商業地においては、商業施設の配置、背後地の状態、繁華性の程度等により商業地としての経済価値を判定する条件をいい、土地区画整理事業等、商業密度及び商況がその指標とされている。そして、商業地の価格形成については、地域の態様や地域的特性の多様さから統一的な把握や分析が困難であることから、商業系用途地区における総合調整項目、すなわち、比準表に別途項目が設けられている「商業中心への距離」、「商業密度」等によっては説明できない商業地としての品等を示すものとして、「商況」という指標が設られたと解される。

このように、商業地としての経済価値を判定する指標は「商況」に限られないところ、証拠(乙八、同一〇)によれば、本件決定においても、最寄駅への距離、商業中心への距離、商業密度等の価格形成要因については、別途、格差率算定に考慮されていることが認められる。

これに加えて、証拠(乙五、同一八)によれば、標準宅地aに沿接する主要な街路は、渋谷駅前のスクランブル交差点に接し、集客力の高い大規模店舗や渋谷駅に近接するところ、本件角地に沿接する正面路線(道玄坂側)は、標準宅地aに対面し、人通りが多い点においては、右主要な街路に劣らないのに対し、本件角地に沿接する側方路線(一)(駅前広場側)は、右主要な街路に比較してやや人通りが劣ることが認められる。

したがって、被告の前記の正面路線及び側方路線(一)の商況の格差率の認定は相当であると認められる。

(二) また、証拠(乙八、同一〇)によれば、前記の正面路線及び側方路線(一) の商況以外の格差の認定は、比準表に従ったものであると認められるから、被告の行った右格差率認定は合理的であるということができる。

4  本件角地に沿接する側方路線(二)の商況について

(一) 証拠(乙一一)によれば、本件決定は、標準宅地bに沿接する主要な街路と比較した環境条件のうち商況の格差を、本件角地に沿接する側方路線(二)についてはプラス三二ポイントと認定したことが認められる。

右格差の認定については、前記のとおり、商業地としての経済価値を判定する指標は「商況」に限られないところ、証拠(乙一一)によれば、本件決定においても、最寄駅への距離、商業中心への距離、商業密度等の価格形成要因については、別途、格差率算定に考慮されていることが認められる。

これに加えて、証拠(乙五、同一〇)及び弁論の全趣旨によれば、本件角地に沿接する側方路線(二)は、標準宅地bと比較して、渋谷駅及び商業中心に近く、繁華性が優っていることが認められる。

したがって、被告の前記の側方路線(二)の商況の格差率の認定は相当であると認められる。

(二) また、証拠(乙一一)によれば、前記の側方路線(二)の商況以外の格差の認定は、比準表に従ったものであると認められるから、被告の行った右格差率認定は合理的であるということができる。

5  側方路線加算について

(一) 原告らは、標準宅地aが三方路の角地であるのに、本件角地も三方の路線に沿接するとして二つの側方路線加算をするのは、重複して高い評価をするもので、違法であると主張する。

しかし、証拠(乙六、同一六)によれば、不動産鑑定士P2は、標準宅地aの平成四年七月一日における一平方メートル当たりの評価額を三七〇〇万円と鑑定評価するに当たっては、当該土地の評価額三七七〇万円から、角地であること及び規模が小さいことを捨象して、主要な街路のみに面する中間画地としての評価したものであることが認められる。

したがって、本件各土地の評価において、二つの側方路線加算をすることが重複して高い評価を行っているものではないから、原告らの主張は失当である。

(二) また、原告らは、標準宅地aの鑑定評価において、角地による補正率が五パーセントであるのに比較して、本件各土地の評価における二つの側方路線加算の加算率が大きいから、右加算率は適正ではないと主張する。

しかし、取扱要領第九節第5の2は、正面路線以外の側方路線、二方路線等の副路線が存在する宅地について、正面路線のみに接する画地の価格より一般的に高くなるとして、副路線の影響を基本単価に加算するものとしているが、これは、副路線がある画地は、正面路線のみに接する画地に比べて、建築計画上の優位性から宅地としての利用価値が大きくなることを考慮したものであり、特に、商業地においては広告宣伝効果や顧客誘引効果が優れていることを考慮しているため、取扱要領付表2及び付表3において、右加算率は、本件各土地が属する高度商業地区等についてのものが最も大きくなっている。

そして、右加算率は、不動産評価の方法として一応の合理性を有するものといえるから、取扱要領に従って二つの側方路線加算を行うことは妥当なものというべきである。

6  共有地の評価について

(一) 原告らは、本件各土地は共有地であるから、各共有者の持分ごとに評価すべきであると主張する。

(二) しかし、法は、固定資産税は、固定資産(土地、家屋及び償却資産)に対し、その所有者に課するものと定め(三四一条一号、三四二条一項、三四三条一項)、また、法三八八条一項に基づいて自治大臣が告示した評価基準においても、土地につき、「宅地の評価は、各筆の宅地について評点数を付設し、・・・各筆の宅地の価額を求める方法による」等と定め(第1章第3節一)、家屋につき、「家屋の評価は、・・・各個の家屋について評点数を付設し、・・・各個の家屋の価額を求める方法によるものとする。」ものと定めている(第2章第1節一)。

また、当該固定資産が共有物である場合の納付義務については、区分所有に係る家屋及び区分所有に係る敷地の用に供されている土地の場合を除き、納税者である各共有者が連帯して納付する義務を負う旨を規定している(法一〇条の二第一項、三五二条、三五二条の二)。

右によれば、法は、土地、家屋又は償却資産である固定資産を課税の客体とし、共有物たる固定資産についても、区分所有に係る家屋及び区分所有に係る敷地の用に供されている土地の場合を除き、その各共有持分権を課税の対象とせず、当該固定資産を全体として一個の課税客体としているから、その前提として行われる課税客体の評価についても、各共有持分ごとに評価すべきものとは解されない。

(三) そして、当該固定資産の適正な時価とは、前記のとおり、正常な条件の下に成立する当該固定資産の取引価格をいうものと解すべきであるから、共有物についても、当該固定資産全体を取引の客体として、価格を算定すべきである。そうすると、共有物を個々の持分ごとに取引の客体として評価する場合には、他に共有者がいることに伴う諸々の制約等を減価要因として考慮する余地があるのに対し、共有物全体を取引客体として評価する場合には、右減価要因については考慮する余地はないというべきである。

(四) したがって、原告らの右主張は採用できない。

7  分有地の評価について

(一) 前記のとおり、本件各土地は、他の五筆の土地と合わせて鉄骨鉄筋造地上九階建店舗ビルの敷地として利用されている、いわゆる分有地であるところ、原告らは、分有地については各所有地ごとの形状、位置、利用状況等による価格差を考慮すべきであると主張する。

(二) 評価基準は、各筆の宅地の評点数は、一画地の宅地ごとに画地計算法を適用して求めるものとし、この場合の一画地は、原則として、土地課税台帳又は土地補充課税台帳に登録された一筆の宅地によるものとするが、一筆の宅地又は隣接する二筆以上の宅地について、その形状、利用状況等からみて、これを一体をなしていると認められる部分に区分し、又はこれらを合わせる必要がある場合においては、その一体をなしている部分の宅地ごとに一画地とする旨を規定している(評価基準別表第3の2参照)。

また、取扱要領第九節第3は、画地の認定は、原則として土地(補充)課税台帳に登録された一筆の宅地を一画地とするが、隣接する二筆以上の宅地にまたがり、恒久的建物が存在する土地及びその土地と効用上一体として利用されていることが明らかな土地については、二筆以上の宅地を合わせて評価するものと定めている(取扱要領第九節第3の2(1))。

(三) 右評価基準等の規定により分有地全体を一画地として認定する場合には、まず分有地全体を一画地とする評価がなされることとなるが、右評価を前提に各筆ごとに評価するに当たり、各筆の形状、位置、利用状況等による価格差を考慮して評価の調整を行うべきものとする規定はない。

そして、東京都知事においては、一画地として認定した各筆の価格について、当該画地の単位面積当たりの価格に各筆の地積を乗じることにより決定しているのであるから、結果として、各筆の当該画地に占める面積比に応じて評価を行っていることになる。

(四) このように二筆以上の土地が一体として利用されている場合につき、評価基準等が、各筆の形状、位置、利用状況等の特性を捨象して、当該画地全体を一画地として評価することとしているのは、各筆が単独で利用される場合と比較して、面積、形状、接道状況等の点で使用・収益価値が増大し、各筆の個別利用を前提とした評価額の合計よりも、客観的価値が上昇し、各筆ごとの特性による影響が弱まるから、二筆以上の土地全体を一画地として取り扱うことが宅地相互間の評価の均衡を図る上で適切であるとの考え方に基づくものであると解される。

そして、当該画地全体の右客観的価値の上昇分は、必ずしも、各筆の個別利用を前提とした評価額に比例して、各筆の評価に還元される性質のものとも限らないから、原告らの主張する各筆ごとの価格差を考慮した評価方法が、「適正な時価」を算定する唯一の合理的方法であるとはいえない。

そうすると、前記の考え方に基づいて一画地と認定された土地について、一体として利用されていることを前提に、各筆の個別の差異を設けずに、単に一画地の一部をなすものとして、各筆の面積に応じて評価することは、分有地の評価方法として一応の合理性があると解することができる。

(五) なお、証拠(甲五)及び弁論の全趣旨によれば、本件各土地を含む本件角地上にある九階建店舗ビル(ε駅前ビル)について、各土地の所有者は、四階以上は所有地の面積比により共有するが、三階以下は当該所有地の地上部分だけの区分所有権を有するにすぎないことが認められるところ、原告らは、ビル三階以下の使用収益に右の制限がある以上、本件角地の均一評価は不合理であると主張する。

しかし、区分所有権の範囲が右のとおり画されているものの、本件各土地も、他の五筆と一体としてビルの敷地として利用されることによる客観的価値の増大による恩恵を受けること、ビル四階以上については所有地の面積比により共有する関係にあることからすると、いまだ各筆の面積に応じて評価することの前記合理性を覆すには足りないというべきである。

(六) したがって、分有地の評価方法についての前記原告らの主張は採用できない。

四  結論

1  以上によれば、平成六年一月一日における標準宅地aに沿接する主要な街路の路線価は二一五〇万点、標準宅地bに沿接する主要な街路の路線価は一三〇〇万点であるところ、これに基づく本件各土地の価格は、次のとおり算定される。

(一) 本件角地に沿接する正面路線の路線価 二〇六〇万〇〇〇〇点

前記標準宅地aに沿接する主要な街路の路線価二一五〇万点に前記格差率九六パーセントを乗じた(有効数字上位三桁)。

(二) 本件角地に沿接する側方路線(一)の路線価 一八七〇万〇〇〇〇点

前記標準宅地aに沿接する主要な街路の路線価二一五〇万点に前記格差率八七パーセントを乗じた(有効数字上位三桁)。

(三) 本件角地に沿接する側方路線(二)の路線価 一一九〇万〇〇〇〇点

前記標準宅地bに沿接する主要な街路の路線価一三〇〇万点に前記格差率九二パーセントを乗じた(有効数字上位三桁)。

(四) 本件各土地の基本単価 二〇一八万八〇〇〇点

右正面路線の路線価二〇六〇万点に、奥行価格補正率〇・九八を乗じた。

(五) 側方路線(一)の加算評点 二六一万八〇〇〇点

右側方路線(一)の路線価一八七〇万点に、奥行価格補正率〇・九二、側方路線影響加算率〇・一五〇を乗じた。

(計算式)

2,618,000=18,700,000×(0.92×0.150)

側方路線(一)路線価 奥行補正 側方路線影響加算率

2種以上の補正率は小数点第3位で四捨五入

(六) 側方路線(二)の加算評点 一六六万六〇〇〇点

右側方路線(二)の路線価一一九〇万点に、奥行価格補正率〇・九二、側方路線影響加算率〇・一五〇を乗じた。

(計算式)

1,666,000=11,900,000×(0.92×0.150)

側方路線(二)の路線価 奥行補正 側方路線影響加算率

2種以上の補正率は少数点第3位で四捨五入

(七) 本件各土地の単位地積当たりの評点 二四四七万二〇〇〇点

前記(四)、(五)及び(六)の合計

(八) 本件各土地の評価額

(1) 本件土地一の評価額 五七九九万八六四〇円

右単位地積当たりの評点二四四七万二〇〇〇点に本件土地一の地積二・三七平方メートルを乗じて総評点を五七九九万八六四〇点と算出し、これに一点当たりの価格一円を乗じて算定した。

(2) 本件土地二の評価額 三億三八九三万七二〇〇円

右単位地積当たりの評点二四四七万二〇〇〇点に本件土地二の地積一三・八五平方メートルを乗じて総評点を三億三八九三万七二〇〇点と算出し、これに一点当たりの価格一円を乗じて算定した。

(3) 本件土地三の評価額 一三億一八〇六万一九二〇円

右単位地積当たりの評点二四四七万二〇〇〇点に本件土地三の地積五三・八六平方メートルを乗じて総評点を一三億一八〇六万一九二〇点と算出し、これに一点当たりの価格一円を乗じて算定した。

2  よって、本件決定は、本件土地一の価格を五七九九万八六四〇円を上回る六一三八万三〇〇〇円と認定した点において、本件土地二の価格を三億三八九三万七二〇〇円を上回る三億五八七一万五〇〇〇円と認定した点において、本件土地三の価格を一三億一八〇六万一九二〇円を上回る一三億九四九七万四〇〇〇円と認定した点において、いずれも違法であり、原告らの請求はいずれも理由があるから、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 市村陽典 裁判官 阪本勝 裁判官 村松秀樹)

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